How would you like your coffee?


 気まずい雰囲気が、それほど広くない室内に充満していた。
 コンソールをたたく音だけが、ぽつぽつと響く。
 いい加減、沈黙に耐え切れなくなってきたころ。車の急ブレーキをかける音が家の外から聞こえて。ドアが勢いよくひらき。男が飛び込んできた。
「おっはようございます。みのりさ〜ん。」
「水守です。」
 毎日毎日、この男が乱暴に開けるため、ドアにつけられた蝶番がいたみ始めている。
 それはいつも日課のごとくここに遊びに(当人には当然遊んでいるつもりはないらしいが)来たクーガーだった。ホーリーの制服を着たままうろつかれると近所に不信に思われるからやめてくれと何度も言い聞かせたが、聞いているのかいないのか。止めるつもりはないらしい。
「あぁスイマセン。みのりさん。」
「水守です!」
 からかっているのか、ただの阿呆なのか、はたまた彼流のコミュニケーションなのか、毎度のように名前を間違えるクーガーに、律儀に訂正を入れる水守。日常に繰り返されるいつもの会話。  ようやく流れる雰囲気がいつもどおりに戻ってきた。  橘は安堵からの嘆息をする。あの空気の中に長くいるのはつらかった。おそらく水守もそう感じていただろう。
 その空気を作り出していたのが自分であることは棚において。橘は椅子から立った。普段は邪魔に感じることも多いが、今日に限ってはとてもありがたい乱入者にコーヒーを入れることにする。クーガーはいつもひとしきり水守をからかうとすぐに帰っていってしまうからだ。
 少しでも長く引き止めておきたかった。
 今は少しでも和んだ雰囲気がほしい。
 安物のコーヒーメーカーから上がる蒸気を見ながら。安物のカップと、砂糖つぼをとりだした。
「あ、砂糖がきれてる・・・」
 壁の外側で調味料はそこそこ入手が難しい。もっとも、そこに目をつけた彼は最近始めた物流の仕事で、調味料を扱っていて、それなりに経営は上向きになっている。裏の倉庫のなかに砂糖ならあるはずだ。
 その言葉を聞いて水守が立ち上がる。
「私がとってきます。」
 返事も聞かず、彼女は倉庫の鍵を取り。部屋から出て行ってしまった。



 水守を見送って、橘はもう一度嘆息した。やはり尾を引いている。
 完全に姿が見えなくなるとクーガーが口を開いた。
「社長、みのりさんと何かあったのか?」
 勘の鋭いクーガーはこの気まずい雰囲気と二人のいつもとちがった態度に、当然気づいていたらしい。まぁ勘が鋭くなくても簡単に気が付くかもしれない。それほどまでに分かりやすかった。
「キスを迫ったら、ひっぱたかれちゃいました。」
 たたかれた側の頬に手を当て、肩をすくめて苦笑する橘を見ても。クーガーは怒りも、嘲いもしなかった。
「それはまた大変だな。」
 水守を好きだと公言してはばからないはずのクーガーから出た意外な反応に、かえって橘は動揺する。
 怒られるかと思ったがそうでもないようだ。
 一瞬悩むような様子を見せた後、先ほどより少し小さな声で。
「本当は、犯してやろうかと思ったんですけどね。なんだか気分が萎えてしまって、続ける気にはなれませんでした。」
 黙っていればいいことまで口にしてしまうのは、気分が参っている証拠・・・
「また、どうしていまさら?」
 同居をはじめて半年が経過したいまでも、二人の関係は友人どまりであったし。そして互いにそれ以上の進展を望むつもりも無かったはずだ。
「今日は桐生さんが、朝からあんまり劉鳳の話ばかりするんでいらいらして・・・馬鹿ですよね、僕は。」
 劉鳳が戻ってくる夢を見たのだと嬉しそうに語る姿に腹が立った。
 水守の透き通った瞳は劉鳳しか映さない。いつでも、どんなときでも、彼女が思いつづけるのはただ一人だけ。生死も分からないただ一人だけ。
 憎しみの目でもかまわない、視界に入れてほしい。
 見苦しい嫉妬心。
 だが、人間から欲がなくなることなどありえない。独占欲、愛欲
「馬鹿だって自覚があるうちなら、大丈夫だろー。」
「貴方には馬鹿呼ばわりされたくありません。」
「いや、大馬鹿だな。俺はコーヒーに砂糖を入れないこと、忘れてたじゃないか。」
 その話に何の関係関係が、と思ったが、クーガーがわざわざそういう言い方をするときは、何かの例えだったり、次の話への前置きだったりすることが多いので、あえて反論するのは避けた。
 過去、ここを訪ねてきたクーガーに、コーヒーを出したときのことを思い出してみる。
「・・そうでしたっけ?」
 そういえばそうだったかもしれない。
 山盛りで何倍も砂糖を入れていた気がしたのは、クーガーではなく、ほかのホーリー隊員のだれかだったか・・・?
 砂糖をとってくると云って、出て行った水守は覚えていただろうか。記憶力の良い彼女が忘れるとは思えない。だとすれば、この通夜のさなかのような暗い雰囲気に耐え切れず口実を作って出て行ったのだろうか。
 クーガーはにやりと笑う。
「一番馬鹿なのは、寸止めしちまったことだろうがね。それでも男か?」
「それは、機会を見てまた挑戦するからいいんです。」
 ムキになって答えて。
 だんだん無茶苦茶な話になっていっていると思いつつ。それでも自分の言葉におどろいた。また挑戦?
 無意識がしゃべらせる言葉は、己の奥に秘められた偽りのない思い。
−−−−−何云ってるんだ、僕は・・
 ふと、視線が合ったとき、クーガーが笑いをこらえているのに気づいた。
 なんだか妙に恥ずかしくなって、無理やりにでも話題を変えてみようとする。
「・・・・戻ってきませんね。」
「社長が酷いことするからだろうが。さってと、ちょっと行って慰めてくるか。」
 クーガーはにやりと笑うと頭を掻きながら外への扉へ向かう。
「貴方は桐生さんを真剣に好きなんですよね?・・・どうして桐生さんから思いを返してもらえなくても、平静で居られるんですか。」
「さあな、人の思いってのは自分勝手なもんさ、俺だって。みのりさんが劉鳳を愛していることは知っているが。それでも諦められない、見守っていたいと思っている。みのりさんが幸せに成れるなら、俺を振り向くことがなかったとしても、それでいい。」
 そういうものだといいながら、猫背な背中は倉庫の方へ消えた。
 やるせない思いに自制がきかず、橘は机を強く叩いた。
 机が軽く振動し、手に軽い痛みが走る。何かにあたらずには居られないそんな感情。
「でも、それで納得できるほど、僕は大人じゃ無いんですよ。」



 もう大分、水守は倉庫の床に座り込んでぼうっとしていた。砂糖の入っている箱はすでに見つけていた。それを早く持ち帰らねばということを、忘れていたわけでもなかったが、それでもあそこに居るのは辛かった。
「だめよ、好きになっちゃ・・・」
 自分に言い聞かせるため、なんどもそう繰り返す。
 あの時一瞬だが受け入れてしまおうかと思った自分を憎んだ。やさしさが疎ましい。
 どこに居るか、生死すらも分からない人。
 隣にいて笑いかけてくれる人。どちらを選ぶべきなのか。
 叩きたかったのは彼の頬ではなく、弱い自分の心だったのに、
「私には劉鳳だけなんだから。」
 自分が心配し、探そうとしなかったら、誰が劉鳳を思うというのだろうか?
 もしかしたら、ホーリー隊のシェリスあたりは、水守と同じことをしているかもしれないが・・・。
 水守はシェリスを思い出す。劉鳳を一途に追いかける姿が、強く印象に残っている。
 だからこそ、シェリスより強く、劉鳳を思わなければいけないという使命感に背中を押され、水守はペンダントを握り締め、呟いた。
「私には劉鳳だけ、劉鳳にも私だけ。」
 生まれてくる感情を押し殺した。他の男性を見てはだめ。思ってはだめ。
 虚しさがこみ上げる。
「別の人を好きになっちゃだめ。」
 現実がどうだとしても・・・・自分の心に嘘をついても??
 そのとき、外から呼び声が聞こえた。そういえばだいぶ時間がかかってしまっている。水守は砂糖の袋を手にもって、精一杯。自分を騙したつくり笑顔で、訪問者を迎えた。




How would you like your coffee?
中学レベルで止まってしまった
私の英語力によるいい加減なタイトル。
「コーヒーに何入れて飲む?」
本気で英語理解してないので、突っ込まないで(笑)

ごめんなさい。なにやら、暗くなってしまいました。
なにやら橘→水守です。男女カプだとこれが一番好き。
最初はヤッてる話書こうかと思ってんですが、無理でした。
つーか、プラトニックのほうが萌えるなぁこのカプだと。
なんというか、惹かれあっている部分があるけど
お互いに距離をおいて接している感じ?

水守は、劉鳳以外には敬語だし
橘は基本的にですます言葉使ってるし
クーガーも水守には丁寧語なんですよね?
かきわけできねぇ(爆死)
アニメ全話見直して分かった。
書きやすいと思ったら橘って性格が女々しいんだ(苦笑)

水守って単体とかだと好きなんですが
劉鳳とカプられてると好きじゃないです・・・
でも絵が好みなサイトは劉×水なところ多いんですよ・・・にゅう。


戻っちゃえ。